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環境と働く人に配慮したものづくりとは

2023/11/30[Thu]

『PARaDE』参画ブランドを深堀りしていく連載です。7回目は2021年2月ローンチのサスティナブルな靴ブランド・Öffen(以下・オッフェン)。アッパー部分にペットボトルの再生糸、インソールやアウトソールも環境に配慮した素材を用い、製造工程も人に配慮。持続可能なオッフェンの靴は、デザイン性の高さで「履いてみたくなり」、そして軽さと歩きやすさで「欲しくなる」人が続出中。洗練されたデザインと、高度な製靴技術が生み出す高い機能性がありながら、価格は1万円台。履きやすく求めやすいオッフェンの靴を生み出した、プロデューサー・日坂さとみさんと、代表・岩本英秀さんにお話を伺いました。

左:代表・岩本英秀(いわもと えいしゅう)フランス・パリでの生活を経て、帰国後デザイナーに。製靴業に転身してからは、多くのブランドの靴を手がける。オッフェンを運営する株式会社Norms代表。

右:プロデューサー・日坂さとみ(ひさか さとみ)20 代から人気セレクトショップのバイヤー・デザイナーとして活躍。出産を機に、自然や環境に沿ったものづくりを模索したことが、オッフェンに結実。2020 年に一般社団法人エシカル協会「エシカル・コンシェルジュ・オンライン講座」修了。

スキップしたくなるような履き心地の良さ、ファッションやシーンを選ばずに使えるデザインのオッフェンの靴。ブランド名の「オッフェン」とは、ドイツ語で「開放的な」「解き放つ」という意味があり、文字通り履くだけで心が開放的になり、製造背景を知れば環境負荷への心の負担から解き放たれることを実感します。だからこそ、ローンチから2年以内に直営店が3店舗に拡大し、全国の百貨店からポップアップのオファーも殺到しているのも納得。最近は、強い要望に応えメンズラインも登場するなど、人気ブランドに成長しました。その背景にある、環境や労働問題の解決への熱い思い、靴の街・神戸で培われたものづくりの神髄を中心に紹介します。

Öffen(オッフェン)公式サイト

――ファッション業界は流行が目まぐるしく変わり、靴も様々なデザインがあります。それなのに、オッフェンの女性用の靴の基本の型は3つ(トップ写真)に絞り込んでいると聞きました。

プロデューサー・日坂さとみさん(以下・日坂) オッフェンの靴が生まれた背景には、長年、ファッション業界で仕事をするうちに、抱えるようになった疑問があります。
これらの疑問を解決に導くため、立ち上げのときに、サスティナブルなものづくりの方向性を考えていきました。その結果、リサイクル素材を使い、ゴミを出さず、労働環境に配慮することにしたのです。
多様な型を作るのではなく、流行を問わずに使えるベースの型を決め、そこに絞り込んでいきました。ポインテッド、スクエア、ラウンドという3パターンにしたのは、シーンを問わずに使えるからです。

代表・岩本英秀さん(以下・岩本) 1980年代後半から製靴業に入り、ここ20年ほど日坂さんと同じ疑問を抱えるようになりました。多種多様な靴を手がけてきて、「サスティナブルな靴」という選択肢を時代が求めているようにも感じたのです。
そのことを以前から面識があった日坂さんと話す機会があり、そのことがオッフェンの立ち上げにつながっていったのです。

――オッフェンの産みの母は、ファッション業界と製造業で第一線を走ってきたからこそ見える、環境負荷や労働環境への「疑問」。ただ、靴は長年、決まった工程で製造されており、それに合う技術が受け継がれています。また、強度や機能も担保せねばなりません。オッフェンの靴はリサイクル素材を使い、新しい技術で作り上げています。

岩本:開発はとても大変でした。30年以上、靴を作り続けて来て、オッフェンの靴を作るのは非常に難しく、約 2 年ぐらいかかりました。
時間がかかったのは、木型です。通常の場合、試作は2回程度、約1か月程度で木型は完成するのですが、これは13回の試作を行い、1年ちょっとかかりました。
シューズのアッパー部分には、使用済ペットボトルから作られたリサイクル糸で編んだニットを使用しています。その伸縮性を計算しながら、快適な履き心地のために微調整を重ねました。

定番「ポインテッド」の木型を持つ岩本さん。エレガントなのに1日歩いても疲れないので支持されている靴の木型は13回の試作で生まれた。
アッパーに使用しているリサイクル糸は、分別回収された使用済ペットボトルからできている。ボトルを洗浄・殺菌後にチップ化し、熱処理して紡績する。再生ポリエステルなので軽く水洗いも可能。
(写真は『plain rectangular pattern / BLUE』)

日坂:オッフェンのブランドコンセプトは「普段履けるちょっとオシャレな靴。そして環境に優しいをテーマに。」
そして「The destination does not matter. I am happy just to be with you. (行き先はどこでも。あなたと一緒にいれさえすれば私はハッピーです)」
「環境に優しい」を実現するために、他の靴と大きく異なる点が多々あります。例えば、靴底。従来ならクッキーのように型抜きをして加工するのですが、オッフェンの靴はゼリー型に入れて固める要領で、1枚ずつ加工しています。これにより、端材がほとんど出ません。当然、その他のパーツもゴミが出ない加工をし、使用するパーツそのものも減らしました。

岩本:パーツが少なくなれば、手間も減り、働く人の環境改善にもつながっています。裁断という工程がなければ、粉塵も減らせます。また、オッフェンの靴は、職人さんの長時間労働の原因のひとつである「吊り込み」という工程がありません。
これはアウトソールを木型に合わせて成型するという、靴作りの要の部分なのですが、それを省けるような製造工程を編み出しました。これにも時間がかかりました。

端材ロスの削減と、職人さんの労働時間を減らすために、パーツの加工を徹底考察。日坂さんが持っているのは、アッパー部分の素材。この独自の形により、加工時間も短縮できた。

日坂:オッフェンの靴を履く人はもちろん、作る人も、売る人も幸せになってほしい……そんな願いが随所に込められています。
加えて、私達が配慮しているのは、「関わる人をゴミの生産者にしない」ということです。オッフェンは靴箱を作らず、リユースを目的としたペーパーバッグでお渡ししています。この袋は水で洗えるほど強く、観葉植物のプランターカバーや、野菜の保存袋としても活用できます。リボンは靴紐で、お手持ちのスニーカーに使えます。シューキーパーも土に還る生分解性プラスチックを選びました。

岩本:私たちの靴も、いつかは捨てられることになってしまう。その日を一日でも先にするために、インソールも別売りしています。
インソールは、使っていくうちに衝撃吸収性が落ちてしまいます。これを取り換えれば、買ったばかりのような快適な履き心地になります。

日坂:オッフェンの靴を履くと、歩く機会が増え、車移動も減ったという声もいただきます。
できるだけ長く愛用していたくことで、ゴミの量のみならず、CO2の排出量も減らすことができると考えています。

オッフェンの靴は、製靴業におけるさまざまな問題を解決する選択肢のひとつだと感じました。
とはいえ、ファッションは「オシャレかどうか」も大切なこと。
1月21日公開の後編では、トレンドとサスティナビリティの両立ほか、オッフェンが考える未来について、紹介していきます。

取材・文/前川亜紀 撮影/フカヤマノリユキ