オンライン/オフラインを越境した本との出会いをつくる。
2023/11/18[Sat]
『PARADE』参加企業を深堀していく連載です。その2回目に登場するのは、ネット古書店「バリューブックス」。古書の買取・販売のほかに、「本の循環」を意識した取り組みをおこなっています。前編では実際に倉庫に伺い、事業活動について伺いました。
ここでは、「本を循環させる」というバリューブックスのミッションを中心にお話をいただきました
トータルビューティカンパニー「uka」が提案する、ジェンダーレス、サスティナブル、環境、平和、自分を愛することetc.……。ukaの施術を受けたり、アイテムを使ったりすると、私自身が心地よくきれいになることは、周囲の幸せにもつながっていると感じる人も多く、スタートから13年間、性別や文化を問わず、多くの人から支持されてきました。その背景にあるukaの哲学を、深掘していきます。
本は不思議な商材である
幅:先ほど倉庫に伺って、改めて本は不思議な商材だと思いました。倉庫では機械的に扱っているのに、古紙回収に本が出ていくことはよきことではないと感じている。
とはいえ、本好きが古書店を経営したら、ここまで大きな企業にならないと思うのに、機械化して本を扱うことにためらいが残っていることが伝わってくるんです。
中村:そうなんです。作られたものが再利用されずに消えていくのは悲しいことなんですよ。やはり、本には生活を豊かにする力があります。インターネット上でも現実の空間でも、人が本と出会うための環境を整えたいという思いはあります。
幅:人が本に出会う場は書店ですが、バリューブックスの実店舗があるとは知りませんでした。古い商店街の中にあり、地域の文化発信地になっていますね。
入口に、「捨てたくない本、売っています」と掲示されているところが、いかにもバリューブックスらしい。
――「バリューブックス・ラボ」には人気作家の作品や、人気コミックがズラリとあります。
飯田:本の需要と供給の問題なのです。私たちは2万冊を仕入れたうち、半数は値段をつけて買い取ることができず、古紙回収に回しています。つまり、届けられた本の半数が、インターネットでの販売につながらない。その本そのものの価値はあるのに、供給過多になっているんです。
中村:だから、実店舗でお客様に手に取っていただく機会を設けたかったんです。ネットは検索しますが、実店舗では偶然の出会いが生まれますから。
今は週末のみの営業ですが、できれば毎日営業したいですね。やはり、言葉をつむぎ、作品となった「本」の形で、次の読み手に渡したい。
飯田:一世を風靡したベストセラーもありますし、アート本や歴史関連の稀覯本もあります。ここに並ぶのは自分たちの力では活かしにくい本なので、ほかの古書店さんの仕入れも大歓迎しています。
稀覯本の扱いは、永遠の議題
幅:ざっと店内を見たけれど、100円で販売している本の中には、1万円以上の値がつくものもあります。
中村:古書店街・神保町の専門古書店なら数万円で買い取れる本も、システム上、ISBNがなければ買取価格は0円になってしまうんです。
でも、そういった本も漏れなく買い取れるようにするには、作業のコストがかかり過ぎてしまうんです。自分たちでも、なんとか活かせないかともやもやしています。今はお客様に対して事前に「ISBNのない本は、買い取れないんです」とお伝えするようにしています。
飯田:社内における、永遠の議題ですよね。
中村:一時期、全ての本のデータベースをつくろうと思い、表紙・裏表紙・背表紙の本の三辺をデータで残せるスキャナーを20台ほど購入したんです。ただ、それもうまくいっている状況ではないので、歯がゆい思いをしています。
幅:なるほど。ちなみに、バリューブックスさんは図書館との連携もされていますよね。
中村:図書館と連携したプロジェクトのひとつには、陸前高田市立図書館の再建支援があります。ここは、2011年の東日本大震災の津波により8万冊の蔵書が流失するなど壊滅的な被害を受けた施設です。
私たちは当時の副市長と連携し、本の買取金額を寄付に回す「チャリボン」という弊社のサービスを活用し、4000万円以上の寄付につなげることができています。
――前編で伺った「無印良品」との取り組み、自治体、スターバックスコーヒージャパンとの本回収のプロジェクトなど、他業種とのコラボレーションが多いです。
中村:他業種の方々とコラボレーションする際には、企画の立案から実現までに様々な調整が発生しますので、単純に広告を使ってユーザーを増やすよりも大変な部分はあります。それでも、自分たちのサービスを活かして他社の課題を解決していくことで、出会えるユーザーもいると思っていて。
「この課題を解決したい」という”気持ち”で新たなプロジェクトが生まれることは多いのですが、それと同時に、ビジネスとしてどう成立させるか、といった”マーケティング”の部分も合わせて事業を進められるように努力しています。
幅:確かに、気持ちだけが先走りしていては、持続可能になりにくい。
飯田:バリューブックスを多くの人に知っていただいた一つの要素に、「コテンラジオ」(歴史系Podcast 番組2018年11月~)のスポンサードを始めたこともあると思います。
幅:歴史を深堀するあの番組のファンは多いですからね。でも、どういう経緯だったんですか?
飯田:番組内で、「参考文献の購入が大変だ」と言っていたので、問い合わせフォームから「本、要りますか?」って送ったんです。
これは以前から、スポーツメーカーが選手に靴やウエアなどを提供しているのを見て、「同じような取り組みが古本屋としても何かできないかな」と考えていたこともありました。
とはいえ、本を必要とするプレーヤーとはいったい誰なのか。作家なのか、研究者なのか……と具体像を考えているときに、コテンラジオと出会ったんです。僕が純粋に彼らのコンテンツが好きで聴いていた、というのも最初のきっかけではありますね。
お金の使い方を考えることも大切
幅:「好き」ということは大きなパワーがあります。マスに対しての働きかけはどうしているんですか?
飯田:基本的にはネット広告やチラシで集客していますが、最近では広告費を別の形で活かせないか、と試行錯誤しています。たとえば、創業15周年記念プロジェクトの一環として、「信州の美味しいものキャンペーン」を立ち上げました。
これは、お客様が買取に出すだけで、コーヒー、日本酒、お菓子などを自宅に届けるキャンペーンです。
幅:?? お客さんは本を買い取ってもらって、お金を受け取って、さらに日本酒やお菓子が送られてくるってこと?
飯田:そうなんです。だから「詐欺じゃないか?」などといぶかしがられることもあります(笑)。でも、広告費にかけていたお金を、長野の企業の商品購入に充てる。商品が届いたお客様が満足してくださり、再び「バリューブックスで本を売ろう」と思っていただく循環をつくることができる。連携する企業からも周知いただけますし、買取が増えるほど弊社が購入する商品が増え、先方の売上にも繋がる。そんなことを目指して取り組んでいます。
幅:なるほど。出版社に利益を還元する「VALUE BOOKS ECOSYSTEM」もそうだけれど、既存の考え方では理解しにくい。でも心は伝わってきます。
――本を次の読み手につなげる活動を行っていても、供給過多ゆえに、本は処分されます。
飯田:毎日大量の本が、古紙回収にまわっており、その実態を確認するために、静岡の製紙工場に行きました。本は新しい紙へと再生しており、日本の紙のリサイクル循環はよくできていると感じました。そのうちに、バリューブックスが古紙回収にまわした本だけの再生紙を作ったらどうか、とひらめいたのです。
中村:古本を用いた再生紙の製作は、これまで作られたことがないそうです。ただの紙として再生してもよかったのですが、ノートにした方が使いやすいと考え、地元の印刷会社の協力を得て「本だったノートは完成しました。
幅:印刷は印刷所の「廃インク」を活用しているんですね。このノートにも循環という思想が反映されています。
出版事業にも進出
幅:そうだ、バリューブックスは2022年5月に『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』も出版し、出版・流通事業にも進出しました。
※B Corp……B Corporation™️は金融、生活資材など79カ国約5,000社が取得する認証制度。米国の非営利団体の「B Lab™️」が運営し、社会や環境などに配慮して事業を行う営利企業が認証される。現在、国際的なムーブメントになりつつある。
中村:『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』は、「よいビジネス」に取り組もうとする、すべての人に向けて、広めていきたい思いがあり出版しました。
B Corpの存在自体は2015年ごろから認知していて、米国企業のパタゴニアやベター・ワールド・ブックス、B Labのサンフランシスコオフィスに訪問し学んでいました。
飯田:ただ、日本でB Corp認証を取得しようと思っても、日本語のガイドブックは存在していませんでした。
日本でB Corp認証を取得しているのは11社(2022年5月)に過ぎず、それは日本語のガイドがない、という言葉の壁も大きいと考えました。
原書の翻訳は「あたらしい会社の学校『B Corpハンドブック翻訳ゼミ』」というゼミ形式で複数人と一緒に行いました。メンバーはバリューブックスと監訳者の若林恵さん(元『WIRED』編集長)が主宰する黒鳥社との共同で募集し、ジェンダーバランス、多様性などの観点を踏まえ、26名の参加者を選定し、時間をかけて進めました。
このメンバーには、本書の翻訳印税の一部がレべニューシェアされます。
幅:そんな経緯があったんですね。ところで、バリューブックスはB Corpを取得しているんですか?
飯田:それがまだなんです(笑)。でも、近い将来、認証を受けようと進めています。
中村:古書もそうですが、私たちが作った本も、人と人をつなげ、いい未来につながっていくといいな、と思っています。これからも、試行錯誤をしながら、さまざまな取り組みを続けていきます。
VALUE BOOKS
www.valuebooks.jp
『日本および世界中の人々が本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える』をミッションに、本の買取・販売を行う古本屋。1日に2万冊届く本の売買に軸足を置きつつ、本屋「本と茶 NABO」や移動式本屋「ブックバス」の運営、古紙回収される本を活用した「本だったノート」の制作なども行う。