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売る人、買う人、つくる人、みんなが嬉しい本の循環システムとは?社会までもよくするバリューブックスの取り組み。

参画企業に深堀していく連載「PARaDEの歩み」。その2回目に登場するのは、ネット古書店「バリューブックス」。古書の買取・販売のほかに、本の買取金額を寄付する「チャリボン」、古紙回収に回った本を再生紙にしてノートとして販売する「本だったノート」など、ユニークな取り組みを行っています。その背景にある思いはどこにあるのでしょうか。

バリューブックスが運営する古書店「本と茶 NABO」にて。左からバリューブックスの編集者・飯田光平さん(文中・飯田)、バリューブックスの取締役副社長・中村和義さん(文中・中村)、PARaDE編集長・幅允孝(文中・幅)。

――「チャリボン」、「本だったノート」の他に、教育施設や病院などに本を寄贈する「ブックギフト」、移動式書店「ブックバス」など、さまざまな活動をしており、「いい本屋さん」というイメージがあります。

飯田:ありがとうございます。私たちはあくまで本の買取・販売を主軸とした古本屋ではあるのですが、より多くの本を循環させられるように、さまざまなプロジェクトに挑戦しています。

幅:先ほどお邪魔した倉庫も、圧倒的な物量でした。全国から毎日2万冊の本が届くから、システマティックに処理するしかないことが伝わってくる。あの物量は出版業界が「出せばいい」と続けてきた現実なのだと、直視せざるを得なかった。

毎日2万冊の本を、スタッフが査定して保管用本棚で管理。在庫は全倉庫を合わせると120万冊以上。注文が入ると、スタッフがピックアップして、発送する。
査定はISBNをベースに行われる。市場価格を参考にしつつ、人の手で本の状態もチェックしている。
作業を効率化するために、本の保管には独自の分類法が採用されている。
発送作業の様子。1日に1万冊もの本が発送されていく。

中村:スタッフは約400人おり、働いている人は、主婦(夫)や学生の方が多い。社内にはエンジニアもいるので、査定に関するシステムを構築し、専門的な本の知識がなくてもなるべく作業しやすい環境にしています。
バリューブックスの始まりは、創業者が大学の卒業後に自宅にあった本をAmazonで売ったこと。うまく就職ができず、なんとか食べていくために始めたのがきっかけです。
ですので、創業当時は社会課題を解決しよう、といったビジョンを強く持っていたわけではありません。でも、本を売り続け、組織が成長するとともに、たくさんの課題や疑問が現れてきました。そういった課題に対して、見て見ぬふりをせず、もがきながら模索している会社と言えるかも知れません。

飯田:ビジネスを考えつつも、それだけだと抜け落ちてしまうことからも目を逸らさない。その間で「もやもやすること」が、私たちの特徴なんです。本の循環を手がける会社ですが、「私たちは、うまく本を循環させられています」とは、言い切れないし、言いたくない。「こういった現実がある。それに対して挑戦をしているけれど、まだまだ自分たちは微力です」と、ありのままを伝えるように気をつけています。
自分たちが行っている挑戦が、課題に対して最適なのかもわかりません。それでも、行きつ戻りつを繰り返しながら、螺旋のようにゆっくりと活動を広げていきたいと思っています。

圧倒的な本の数に驚く幅。このような倉庫が、県内にあと3か所ある。

幅:倉庫を拝見しているとたしかに「本は商材であり、ここは物流倉庫である」という姿勢を感じます。ただ同時に、本が好きであることが、随所ににじみ出ていました。処分に回す最終段階にもスタッフを配置して、選別をしていました。利益重視なら、そこにコストはかけないと思うんです。
個々の想いが宿りやすい本を何とか拾い上げようとあがいているように見えました。

飯田:買い取ることができず、毎日1万冊の本を古紙回収に回しています。この現状をなんとか変えられないか。そういった思いで始まったプロジェクトのひとつが、「古紙になるはずだった本」の制作です。「無印良品」と協業し、彼らが選んだ古典文学、アートブック、エッセイや旅行記などは、一部店舗で取り扱っています。

専属のスタッフが選別している、無印良品との取り組み「古紙になるはずだった本」。

幅:私も行ったことがあるけれど、あまりにも価格が安くて驚きました。本の価値を考えると、値段を上げた方がいいと思ったのですが、「古紙になるはずだった本」だとわかって納得。

中村:そうなんですよ。あくまでネット上の市場では値段のつかない本なので、特殊な事例ではありますね。

コンテナに入れられた、古紙回収に回される本。コンテナのへりの部分に積まれているのが、残されるかどうか瀬戸際の本たち。
残す本かどうかは、無印良品のほか、企業や団体から来た選書オーダーにより判断される。
残された本は、再び誰かの手に渡っていく。

――それにしても圧倒的な量が処分されているのは衝撃的でした。

飯田:皆さん、圧倒的な量だと驚かれるのですが、これでも減ったのです。そのきっかけは、買取時の送料を有料にしたこと。私たちの生命線は買い取りにあるので、本当に迷いました。ただ、なるべく本を捨てたくはありませんし、お客様が事前に手放す本を選別してくだされば、これまで無料にしていた送料分を買取金額に上乗せできますから。

中村:これにより、循環ができる本が増加しました。そしてあるとき、買取のデータを調べてみると、いくつかの出版社の本は、年月が経っても変わらずに買い取ることができると分かりました。つまり、市場での価格が下がらないのです。「ずっと循環がされる価値ある本を作っている著者や出版社さんに、利益を還元すべきではないか」という思いが生まれていきました。

幅:そこで始めたのが、特定の出版社の本がバリューブックスで売れた場合、売り上げの約3割を出版社に還元する「VALUE BOOKS ECOSYSTEM」なんですね。今までの古書業界では考えられないことだと思いました。

飯田:これにより、出版業界にいい循環が生まれるのではないだろうかと思ったんです。提携している出版社には、その出版社の本が売れた際に売上の33%をお渡ししています。中古市場からも、本の作り手に利益が還元される。そういった状況を作れれば、出版社も過度な増刷をしないで済みますし、本を手放す方も「どうせ売るならバリューブックスに売ろう」と思ってくだされば、私たちの利益にもつながっていきます。

幅:いわゆる「三方よし」の世界ですね。

中村:事業である以上、利益を出す必要があります。安く買って高く売る、ということだけに集中すれば、成長スピードは今よりも速いかもしれません。でも、なるべく負荷のない形で、本を循環させていきたいんです。短期的な目線では、無駄な取り組みに見えてしまうかも知れませんが、長期的にはきちんとビジネスとしても成立させられるよう努力しています。

飯田:そうなんですよね。ビジネス的な目線を忘れずに持ちつつ、「でも、本が好きじゃん」と思ってもらえるように試行錯誤していくのが、バリューブックスらしさだと思っていて。この感覚を大切にしていきたいです。

【後編に続きます】
8/13(土)公開予定

VALUE BOOKS
www.valuebooks.jp
『日本および世界中の人々が本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える』をミッションに、本の買取・販売を行う古本屋。1日に2万冊届く本の売買に軸足を置きつつ、本屋「本と茶 NABO」や移動式本屋「ブックバス」の運営、古紙回収される本を活用した「本だったノート」の制作なども行う。