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美容を通じて、皆が「うれしくなる」世界がある。

2023/12/18[Mon]

『PARaDE』参画ブランドを深堀していく連載です。第5回目は2009年発足のトータルビューティカンパニー「uka」。「うれしいことが世界でいちばん多いお店」をビジョンに、国内外にサロンやストアを展開しています。ukaは発足当時から“本物”を提案。ファンがファンを呼び、世界中のクリエイターが熱狂的に支持するエースホテル(米国)の全世界9店舗で、ukaのアメニティが導入されます。「地球規模の“うれしい”を追求し、探求するブランド」と語る代表・渡邉弘幸さんに過去・現在・未来の美のありかたについて伺いました。
前編はukaのイノベーションについて、後編となる今回は現在の取り組みと未来について紹介していきます。

プロフィール
渡邉弘幸(わたなべ・ひろゆき)
1966年、東京都生まれ。明治大学卒業後、広告代理店を経て、2009年から株式会社向原(現・株式会社ウカ)に入社。現在、代表取締役として、商品やイベントの企画開発ほか、他業種とのコラボレーションなども行っている。

トータルビューティカンパニー「uka」のスタートから13年間、さまざまなイノベーションを起こし続け、性別や文化を問わず、多くの人から支持されてきました。前編はその背景にあるukaの哲学を深堀しました。今回は、ukaが大切にしている「人と世界」についての考え方と取り組みを紹介します。

【前編はこちら】

――前編で渡邉さんは、PARaDE代表・中川淳さんの「日本の工芸の再生」への姿勢と考え方に共鳴したとおっしゃっていました。渡邉さんご自身が、注目している日本の技術や素材をお聞かせください。

今は農業に注目しています。
2022年11月から、ヘアカラーに沖縄県石垣島産のヘナ・インディゴを使ったカラーリングのメニューが登場しました。 
これは、石垣の農園で農薬や化学肥料を一切使用せず、循環型の農業で育てられた植物由来の染料を使用したメニューです。この背景には、環境の問題もあり、ケミカルからオーガニックに切り替えるのは最優先事項だという思いがあったからです。
実際に施術を受けた人の中には、自然な仕上がりになるだけでなく、髪にしなやかさが加わり、頭皮もすこやかになったという声も頂戴しています。また、石垣ヘナは一般的に流通しているヘナに比べて香りがマイルドです。
このヘナとの出会いは、数年前にさかのぼります。2021年の夏、私も石垣島に赴き、ヘナの農園で農作業を手伝いました。ヘナはミソハギ科の常緑低木で、育てるのにも加工にも、人の手が欠かせません。
早朝から刈り取り、乾燥、選伐、雑草抜きの作業を手伝いました。刈り取ったヘナは、一晩中乾燥機に入れて水分を抜き、葉だけにして1つ1つ丁寧に小枝を拾い上げます。とても手間がかかっており、美容や健康への力があることを感じました。
この価値とすばらしさに惹かれ、ukaのヘアサロンでメニュー化をしたのです。これから、この価値を広めていきたいと思っています。

ukaのサロン

前編で、私が趣味のサーフィンを通じて知った海洋プラスチック汚染を防止する取り組みについてお話ししました。
海と親しむうちに、雨水をろ過する山の機能についても注目するようになったのです。美しい海は山とつながっていることを感じ、個人的に山を育てる活動を行うようになりました。
そこで、現在かゆみに特化したシャンプーや頭皮ケアアイテム、ハンドウォッシュに使用しているクロモジと出会ったのです。
クロモジはクスノキ科の落葉低木で、高級楊枝素材として知られています。この木は針葉樹(杉やヒノキなど)のそばに生え、縦に根を張る杉の近くで、横に根を張るという特徴も知りました。
今、日本各地で豪雨による土砂崩れが大きな問題になっています。
この原因は、山を育てる人がいなくなってしまったことが要因のひとつ。木材の素材となる針葉樹が覆い、地表近くの常緑樹や植物に日光が届かず、育たなくなってしまうのです。
その結果、大量の雨が降ると、横に根を張る植物がないから、地滑りにつながるのです。
私自身が山林の間伐に取り組む過程で、クロモジの殺菌作用と有用性を知り、成分に取り入れることにしたのです。

――お話を伺っていると、自然は過不足なく循環しており、人もまた自然の一部であることを感じます。渡邉さんが注目する農業といえば、2010年に開店した飲食店「ukafe」では、無農薬素材を使った食事を提供しています。

食は健康の根幹です。今、提供しているのは、自然の恩恵を受けた元気な米と野菜を使った料理です。主に使っているのは、「完一やさい」という農家・齊藤完一さんが作った野菜です。
齊藤さんは千葉の山武市で30年以上、土づくりから行っている有機農業のパイオニアです。化学肥料や農薬を使わずに土と野菜を育ててきました。だからこそ、そのままかじっても、ハッとするほど美味しいです。
今、店長と私やスタッフで完一さんの所から有機の土と野菜の苗を買ってきて、お店のテラスで野菜を育てています。最初はミント、コリアンダー、レモンバーム、シソなどのハーブ類を育てるところから始めたのですが、これがとても美味しかった。このテラス農場で育てられた野菜は、提供する料理の一部に使用しています。

六本木ミッドタウンのテラスを使い、野菜作りをしている。

――ウクライナへの人道的支援やゴールドリボン(小児がん啓発)など、企業としてチャリティ活動も行っています。

多くの取り組みを行っていますが、正式にリリースを出したのは、2021年9月1日「世界小児がん啓発月間」に発売した限定ネイルポリッシュ「uka ネイルポリッシュ ゴールドリボン」の発売。この売り上げの一部を、NPO法人キャンサーネットジャパンへ寄付しました。
2022年2月には、ウクライナへの人道支援のため、ウクライナの国旗の色をイメージしたブルーとイエローの2色のネイルセットを販売し、売上金の全額を国連UNHCR協会へ寄付しました。
11月27日にはパリ発のチャリティーイベント「Hope and Love Day」へ出店。東日本大震災の復興への思いからスタートし、10年以上続くこのイベントに、1回目からネイリストやヘアスタッフたちとともに参加しました。

「uka ネイルポリッシュ peace for Ukraine」は2色セット。平和を願う多くの人が購入した。

これらの活動を通じて感じているのは、美容を通じて社会はよくなるということです。経営陣もスタッフも、本気でそのことを考えています。
今、私が大切にしているのは、「凡事徹底(ぼんじてってい)」という言葉です。
なんでもないような当たり前のことを徹底的に行う先に、皆が「うれしくなる」世界がある。これをコツコツと行い続ける先に、幸福があると感じているのです。

ukaの製品が支持される背景には、「うれしい」という信念がありました。皆がうれしくなる社会づくりのために、今日も深化と進化の羽化(uka)は続いていくのです。

取材・文/前川亜紀 撮影/フカヤマノリユキ