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玄米から広がる、豊かな社会。

2023/12/20[Wed]

『PARaDE』参画ブランドを深堀していく連載です。6回目は2009年設立の「結わえる」。独自製法の「寝かせ玄米®︎ごはん」を基軸に、日本の伝統的食生活の知恵と現代のライフスタイルを“結わえる”ためのさまざまな事業を展開。YUWAERUが提案する、おいしさと健康を両立した気持ちのいい生活は、幅広い層から支持を得ています。「食生活は70点でいいんです。これを続けることで、好きなものを我慢しなくても健康に生きていけますよ」と語る代表・荻野芳隆さん。前編では玄米食の利点と背景を中心に、この後編では、コロナ禍以降の変化についてさらに深くお話を伺いました。

荻野 芳隆(おぎの よしたか)
株式会社結わえる代表取締役、食養研究家。大学卒業後、株式会社船井総合研究所に入社。5年間、主に食品関連企業のコンサルティングに従事する。業務を通じて、食生活やライフスタイルが変わったことを起因とする生活習慣病や伝統産業の衰退に問題意識を抱く。栄養学、東洋医学、食事療法などを学び、2009年に独立。株式会社結わえるを創業する。近著に『玄米ゆる断食 好きなものを我慢しない持続可能な健康ダイエット』(PHP研究所)ほか著書多数。
東京・蔵前のYUWAERU本店

【前編はこちら】生活習慣病にならない世界と、持続可能な社会を創る

――「日本の伝統的な生活文化を、1日1回玄米を食べる生活様式とともに広める」という結わえるの考え方と商品は広まりました。2011年の東日本大震災以降に、個人が充足して生きることに社会全体がシフトしたことで、ファン層も増やしていきます。2014年は商業施設におむすびや、みそ汁を提供する新業態「いろは」も立ち上げ、全国に拡大。大小の危機を乗り越えつつ、順調に成長していた結わえるを、コロナ禍が襲います。

コロナ以前は、注目度が高い商業施設やターミナル駅ビルに出店していました。コロナになると、商業施設で上階の店舗は休業しているのに、食品フロアは生活必需品なので営業をし続ければならない。当然、助成金は出ませんし、店舗にかかる諸経費は以前と同額で支払わなければならない。店舗運営費がのしかかり、人件費もかかるのに利益がないという状態が続いたのです。
そんな絶望的な状況で学んだのは、「地域に根付いたお店」が重要であること。
コロナ禍で大打撃を受けたとはいえ、東京・蔵前のYUWAERU本店(物販・飲食店)の影響は小さかったんです。それは土地に根付いており、地元の人たちと信頼関係が結ばれているから。

商業施設だとお客さんとゆっくり多くのコミュニケーションを取るのは中々難しく、本店では毎月のように行っている、玄米の炊き方教室、味噌作り、梅干しワークショップなどのイベントも開催することは出来ません。私もスタッフも、近所の人々の健康的で豊かな生活の一助となりたいという気持ちを強く持っており、お客様もそれを感じてくださっていた。これこそが私たちの“在り方”だと思ったのです。
現在、計画が進んでいるのは、第2、第3のYUWAERU本店を作ること。まずは、北海道札幌市の店舗が、近日開店予定です。この反応を見つつ、その他の都市にも展開していきたいと考えています。
いずれも時間をかけて準備を重ね、その地域の活性化に繋がる存在にしていきます。

YUWAERU本店では、全国各地で誠実に作られた調味料や工芸品を販売している。

――コロナ禍で躍進したのはECサイト。特に「寝かせ玄米®︎」ごはんパックは、コンビニエンスストアでの販売、老舗ブランドのOEMまで広げ、現在は月30〜40万個製造しています。前編で荻野さんが語った「スタッフと手作業で月1万個作っていた創業時」から大きく躍進しました。

一度召し上がった方が、「おいしい」「翌日体が軽い」と感じてくださる。その後、リピーターになる方が多いと感じます。
ECサイトの拡大に伴い、今、着手しているのは、「寝かせ玄米®︎」ごはんパックの味の向上です。
蔵前やいろはの味を 満点だとすると、ごはんパックではその半分くらい。パックにするときに、180g分に成形し、高圧高温のレトルト殺菌器に入れるので、箸でほぐしにくい状態になってしまう。「目指すは蔵前の味」と試行錯誤を毎年繰り返しています。

――2014年に設立した東京の工場では生産が追い付かなくなり、2017年に茨城県稲敷市に移転しました。

私たちの工場の近くには契約農家・大野さんの田んぼもあります。たまたま元食品加工工場の施設が空いており「ここだ」と決めました。
今、米の消費量が減り続け、農家さんに後継ぎがいないという状況が続いています。大野さんは私たちの使用量が多いために、それをどこ吹く風のように、田んぼを広げています。
私たちが提案する玄米生活が広がれば、お米の消費量が増え「農業は高収入」になり、若者も就業し、農村地域が活性化する。そういう流れをさらに作っていきたいです。

毎年、大野さんの田んぼの一角で、田植え体験イベントを行っています。参加するのは、スタッフとお客様の家族で、みんなで田植えをするのです。そのときに、大野さんの話を聞いたり、工場見学したりします。その後、生産者組合の方が炊いたごはんや、豚汁を食べる。農作業の後だから、本当においしいんです。みんなが笑顔で自然とその恵みを五感で感じている。やはり百聞は一体験に如かずで、「結わえるヴィレッジ」という、日本の伝統的生活文化と食と健康のテーマパークの構想があります。
そこでは、農業や漁業をし、味噌、しょうゆ、酒、ビールなど食品の生産や加工、販売までを行ないます。伝統的な工法で建築物を建て、工芸品の製造・販売もあり、レストラン、温泉、宿泊や医療施設、学校まで網羅している……そんな理想郷を作ることを、今、本気で考えています。

――心地よいものを食べると、身の周りを心地よくしたくなるもの。よい食事にふさわしい食器を選び、箸を使い、箸置きが必要になる。テーブルも無垢材がよくなり、床や壁も温かみがあるものに変えたくなります。

それまでノベルティやプラスチック製の食器を使っていた人が、玄米生活にしてから好みの作家のお茶碗、漆塗りの椀などを使うようになったという例はごまんとあります。
生活空間は、自分自身そのもの。いいものに触れると、数珠つなぎのようにして、心地よく豊かに変えたくなるんです。そんな姿を見れば、周囲の人も「いいね」と広がっていく。
これが、僕が大学に危機感を覚えた地方の衰退、会社員時代に感じた食生活が原因となる健康の危機……2つの大問題の解決につながっていく。
今、社会は少子高齢化、医療費の負担増大、環境問題ほか、多くの課題が累積中です。それらの解決に私たちの事業をつなげることも常に考えています。

新設した撮影スタジオ兼ミーティングルームには、心地よくシンプルな調度品、什器が集められている。家具の多くはリユース、リメイクされている。
棚に並ぶお気に入りのお茶碗たち

――玄米から広がる、豊かな社会。玄米を突き詰めたスペシャリスト・荻野さん。インタビューの最後においしい玄米の食べ方を教えていただきました。

おすすめは、おはぎ。これは玄米の方が圧倒的に美味しいです。香ばしく、あんこととても合います。あとは、カレーもいいですね。結わえるのレトルトカレーはどれも玄米に合います。
個人的に一番好きなのは明太子と海苔。シンプルでホッとします。これも玄米に合いますよ。ぜひお試しください。
そうそう、今、自宅で寝かせ玄米ごはんを作れる家電の開発もしています。「蔵前の味」をご自宅で作ることができれば、玄米食はもっと広がると確信しています。

玄米に合う食べ物について話が弾む荻野さんとPARaDE編集長の幅

――結わえるが玄米ごはんとともに見せてくれるのは、日本の食文化。まだその中には、さまざまな宝が眠っているはずです。
そこを掘り起こし、現代のライフスタイルに合わせて翻訳し、広めていく。心が豊かである生活から広がる心地いい生活は、今から誰でもできることなのです。

取材・文/前川亜紀 撮影/フカヤマノリユキ